さて、前々回の記事では、「認知バイアス」と発達障害(ASD、ADHD)の共通点について書きました。
前回はその解決編として、具体的なエピソードとナッジを利用した解決方法(成人編)について触れたので、今回は小児編をご紹介していきたいと思います。
ケース3・4ともに、体験談をもとにした架空の事例です。
ケース3:ASD小児(Bくん)の場合
◎エピソード
Bくんは、特別支援学校小学部2年生の男の子です。
Bくんはトイレが怖くて、家でも学校でも放デイでも、トイレに入ることができません。
元々は、トイレが何をする場所か見通しが持てないことと、聴覚過敏により水の流れる音が苦手なことが原因だったようです。
ですが、小学校に入る前、お母さんが嫌がるBくんを無理矢理トイレに連れて行き、Bくんがパニックになってしまったことがありました。
それ以来、トイレのドアが開いて中が見えただけで、癇癪を起してしまうようになりました。
放デイの職員は、お母さんから「Bくんがトイレに行けるよう支援をしてほしい」という要望を受け、どのように支援していくか考えています。
◎関係がある「認知バイアス」
・損失回避バイアス:見通しが持てない、苦手な音が聞こえるといったトイレに関わる恐怖感を回避しようとしている。
・現状維持バイアス:「トイレに行かず、オムツで過ごす」という現状を変えたくない。
・利用可能性バイアス:以前、トイレに入って嫌な思いをしたことを、思い出してしまう。
◎対応とその後
Bくんがトイレに行けるようになるために、次の3つの方法に取り組みました。
①トイレのドアや壁に、大好きな電車の写真を貼る。
損失回避バイアス、利用可能性バイアスを弱めるための方法です。
また、繰り返しトイレに行くことで、単純接触効果も狙っています。
最初は、トイレ近くの廊下の壁に電車の写真を貼り、電車の写真にタッチする、という活動を行いました。
慣れてきたら、
トイレのドアの隣
⇓
トイレのドア(外側)
⇓
トイレのドア(内側)
⇓
トイレの壁
⇓
便座のふた
というふうに少しずつトイレに近づいていきました。
②トイレで何をするのか?手順書を作って伝える。
トイレで何をするのか見通しを持ち、損失回避バイアスを弱めるための方法です。
お子さんによっては、トイレの写真や、好きなキャラクターを取り入れても良いかもしれません。

③イヤマフを利用する。
損失回避バイアス(苦手な音への恐怖感)を弱めるための方法です。
Bくんの苦手な、水の流れる音を聞こえにくくするために、イヤマフを利用しました。
Bくんは、小学校に入ってから、トイレ以外の場面でもイヤマフを使っており、「イヤマフを使うと、静かになって楽に過ごせる」ということは本人も実感しているようです。
そのため、トイレに行く時にもイヤマフをつけてもらうことにしました。
この3つの方法に毎日少しずつ取り組むことで、Bくんのトイレに対する恐怖感はだんだん軽くなっていきました。
まだ、オムツは完全に取れてはいませんが、トイレでの排せつに成功することが少しずつ増えてきています。
ケース4:ADHD小児(Cくん)の場合
◎エピソード
Cくんは、特別支援学級に通う小学4年生です。
Cくんが利用している放デイでは、プリント課題に取り組む時間があります。
ですが、Cくんはプリント課題に取り組むのが嫌で、床に寝転がってしまいます。
好きな遊びを中断しなければいけないこと、Cくんにとって難しいプリントを渡されることもあることが原因のようです。
◎関係がある「認知バイアス」
・損失回避バイアス:「難しいプリントに取り組まなければいけない」という嫌な記憶が強く残っており、それを避けようとする。
・投影バイアス:「遊びたい」「難しいプリントはやりたくない」という今の気持ちが最優先になっている。
・現在バイアス:プリント1枚を終わらせるまでに時間がかかるため、「プリントを終えた解放感」よりも「プリントをやらずに今遊ぶこと」を優先してしまう。
・利用可能性バイアス:プリント課題を始める前にやっていた楽しい遊びが、頭から離れない。
◎対応とその後
ピーク・エンドの法則とプライミング効果を利用して、次のような方法に取り組みました。
①好きなキャラクターをフル活用
まず、Cくんの好きなキャラクターを使って、スタンプカードを作りました。
台紙にはキャラクターの絵が描かれていて、プリントに取り組むと、さらにそのキャラクターのシールがもらえます。
プリント課題も、Cくんの好きなキャラクターの迷路や点つなぎなどを用意しました。
②プリント課題の難易度を下げる・分量を減らす
これまでのプリント課題は、Cくんにとって難しすぎるものもありました。
また、1枚のプリント課題を終わらせるまで集中力が続かない様子も見受けられました。
そのため、Cくんが「これなら簡単!」「すぐにできそう!」と直感的に思えるくらい、簡単なプリントから取り組み始めることにしました。
また、プリント1枚にかかる時間は短めにして、その分プリントの枚数を増やすことにしました。
この2つの方法を取り入れることで、Cくんは最初から最後まで楽しい気持ちでプリント課題に取り組めるようになりました。
プリント課題に取り組む習慣がついて、自信が持てるようになると、Cくんのほうから「もっと難しいプリントちょうだい!」と言うようになりました。
「認知バイアス」索引(五十音順)
◎現在バイアス:将来のメリットよりも、目の前の利益を重視する傾向。
◎現状維持バイアス:新しい選択肢より、現状維持という選択肢を好む傾向。
◎自信過剰バイアス:自分の判断や能力を実際以上に高く見積もる傾向。
◎損失回避バイアス:利益を得るための行動より、損失を避けるための行動を優先してしまう傾向。
◎単純接触効果:何度も繰り返し接触しているうちに、好感度が上がっていく傾向。
◎投影バイアス:今の感情や状況が将来も続くと過信する傾向。
◎ピーク・エンドの法則:全体の印象が、「感情が高ぶった時」と「終わる時の印象」によって決まる傾向。
◎プライミング効果:最初に受けた印象が、後々まで影響を与える傾向。
◎利用可能性バイアス:すぐに思い出せるものを過大評価して判断する傾向。
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